スウェーデン語の新しい文法に花束を

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スウェーデンで新しい文法用語が辞書に登録された。

このニュースが素晴らしい。

国民がポジティブな意図を持って、新たな文法を使い始め、それが言語になったのだ。

私がスウェーデン語がわかるのかって?

sweden

(写真はヨーロッパなイメージ)

 

残念ながら、スウェーデン語はわからないが、このニュースの素晴らしさはわかる。

Sweden adds gender-neutral pronoun to dictionary

新しい代名詞(彼、彼女、you, he, sheのような文法用語)が正式に辞書に採用されたというニュースだ。

この新しい代名詞を使えば、男性か女性など、性別を特定しなくていいのだ。

 

ここで、大学時代にフランス語の単位を落としたことがある私が、解説しよう。

ヨーロッパの言語の多く、例えばスペイン語、フランス語、イタリア語などでは、名詞ならば男性名詞か女性名詞に分かれている。

そしてその名詞が男性名詞か女性名詞かによって、冠詞の種類すら変わってくる。

冠詞という感覚が日本語ではあまりないけど、英語で言うと名詞の前につくa dogやthe dogの、aやtheが冠詞だ。

これが特定の名詞を指しているかどうかで、定冠詞と不定冠詞に分かれ、さらにそれが男性か女性かで分かれる。

こういう区別は日本語にはないので、余計大変だ。

ドイツ語などだと、さらに男性女性でもない、中性名詞などが存在するようだ。

 

今回のスウェーデン語の新しい文法のニュースは、代名詞ではあるが、英語でheかsheにあたるものを、性別と関係なく表現できるようにするものだ。

何かの話題を語るときに、特に男性か女性かをはっきり言う必要がない、または言いたくない場合、またはよくわからない場合、またはトランスジェンダーなどの場合、このhanを使えばいいのだ。

この新しい代名詞hanが存在する前は、わからなければ英語で言えば、heを使うような感じだったのだろう。

ただそうすると、「女性かもしれないのに、なぜ男性を表す(英語で言う)heを使うんだ?それは、男性中心が当たり前だというあらわれなのではないか?」

という議論が起こったのは、女性の社会進出が進む北欧であれば、想像に難くない。

ただ、驚くべきはこのhanが1960年代から使われているということだ。

北欧恐るべし。

 

言語は変わるものだ。

日本でも、私達が古文を読むのは非常に難しい。

長い年月をかけて、自然とちょっとずつ変わっていく。

 

このスウェーデンのケースは、意図的に自分達の文化的遺産である言語を、今日的に変えてきたという点が素晴らしい。

「女性かもしれないのに、なぜ男性を表すheを使うんだ?それは、男性中心が当たり前だというあらわれなのではないか?」

と言われた時に、

「そう言われても、この言語は1000年話してきた文化的遺産でしょうがないじゃないか。そんなに大げさに考えなくても、別に女性差別で(英語で言う)heと言っているわけではないよ。」

という反応もあっただろう。

文化的遺産。それも一理ある。

しかし、それを乗り越えて、新しい文法を作って、活用してきたという姿勢が素晴らしい。

 

日本語も変わる。

流行語、最近の言葉、と言われているような言葉でも、10年も使われ続けたら、日本語の一部になったと言えるのではないだろうか。

「マジで!」という言葉が10年以上使われている。いずれ辞書にものるか、もう既にのっているのかもしれない。

しかしそこにスウェーデンのように、ポジティブに言語を今日的に変えていこうというものは少ない。

 

日本語には言語的に、同じような男性女性というのはない。

しかしやはり、現在的に気になることは色々あるだろう。

例えば私は「子ども」と書くときに、「子供」と書かずに「子ども」と書くように心がけている。

子供と書くと、子どもはお供する存在のような印象があり、嫌なのだ。

スウェーデンの今回の取り組みは、私でいうと「子供」という漢字が誤りとなり、「子ども」が正しいと、辞書や教科書に認められたようなものだ。

 

国民がポジティブな意図を持って、新たな文法を使い始め、それが言語になった。

ワンダフルじゃないか。

英語が堪能な民族なので、他国の人がどれだけの人がスウェーデン語を学ぶのかは知らないが、これでスウェーデン語学習得のハードルがあがってしまったら、その点だけが残念だ。

 

アリヴェデルチッ!