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「幼児教育の経済学」

ノーベル経済学者のヘックマン教授の著作。

●評価

全体評価:3
(1,2,3-,3,3+,4,5の7段階評価)

内容:4

読みやすさ:3

コメント:メッセージは幼児教育はとても大切、とシンプル。親ならば教育に特段強い興味がない限り読む必要はない。一方で教育関係の議論ではよく出てくる話なので、政策や教育関係者は必読か。

(2015年発行、ジェームズ・J・ヘックマン、東洋経済新報社)

●本を読んで取り入れたいと思ったアクション

特になし。

●本のポイント

・人生で成功するかどうかは、IQテストや学力テストなど認知スキルだけで決まらない。肉体的・精神的健康や、根気強さ、注意深さ、意欲、自信といった社会的・情動的性質である、非認知的スキルも欠かせない。

・幼少期は重要。5歳までの教育は、学力だけでなく健康にも影響する。6歳時点の親の所得で学力に差がついている。社会的・知的な刺激を最低限にしか与えられずに育つと、問題を抱える。幼少期のふれあいが足りないと子の脳は萎縮する。単なる経済状況や両親の有無だけでなく、成育環境の質が大切。

・幼少期の介入が認知的スキルと非認知的スキルの両方に影響を与える。幼少期の介入の質が重大。経済政策としては、大人になってからの再分配より、幼少期での事前分配の方が効果的。

●感想あれこれ

ヘックマン教授の幼児教育の重要性を訴える主張は非常に著名で、「非認知的スキル」と聞くと彼を想起する程だが、幼少期が相対的に特に大切、金よりも愛情などが重要など、愛のある親からすれば当たり前のようなメッセージがならぶ。

この本が非常にいいと思う理由は、ヘックマン教授の主張はパート1の前半だけで、パート2の「各分野の専門家によるコメント」が充実していることだ。ここで10名もの識者がヘックマンの主張に対する考えを述べている。面白いのはそのコメントの多くは、ヘックマンの主張はここがおかしいよね、とノーベル賞経済学者の意見に対して多様な批判があることだ。このスタンスは非常に健全であるし、色々な視点の勉強になる。

彼の主張に関してつけ加えるとすれば、この話は日本では通じるのだろうか、ということだ。GEDという日本でいう大検で高卒の資格を取った人の話などが、論拠になっているが、アメリカの高校生の実情と日本の実情は大きく異なるだろう。アメリカでそうだから日本でもそう、という単純な図式に収まる話には聞こえなかった。

エッセンスとしては「子どもの教育に力を入れるならば、幼い方が大切よ!」という主張でしかないので、この本は教育政策などに携わる人が、どういう議論があるのかを知る意味では、オススメ。自分の子どもの教育について考えるために本を読みたい人ならば、それだけで愛がある親であるだろうし、あえて読む必要はない。

アリヴェデルチッ!