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「赤ちゃんと脳科学

脳科学、発達行動学を専門とする東京女子医科大学教授の小児科医師が書いた本。

●評価

全体評価:3+
1,2,3-,3,3+,4,57段階評価

内容:3

読みやすさ:3

コメント:

(2003年発行、小西行郎著 集英社新書)

  • 本を読んで取り入れたいと思ったアクション

・小さな赤ちゃんの前で、どうでもよいテレビをつけっぱなしにしない。

・妊娠中はお母さんはストレスをためない

  • 本のポイント

・母親の感情が胎児にもたらす影響
母親が強い不安を感じると、お腹の赤ちゃんの胎動が変化する。

・赤ちゃん育児が思い通りにならないことは、普通のこと。子育てに関して、こうでなければならない、ということはそれほどない。

・言葉が出る前の子どもがよく親を叩いたり噛んだりするのは、言葉を出せないもどかしさゆえの行動。赤ちゃんは指しゃぶりや模倣、新生児微笑、泣きを使って一生懸命親とコミュニケーションをとろうとする。指しゃぶりは自己認知の有力な手段。

・臨界期や感受性期と呼ばれるものは、機能を獲得するためにはそのための適切な期間があると考えられる。

・右脳教育や早期教育
右脳を育てるといっても、右脳の役割についてはまだはっきりわかっておらず、ましてどのようにしたら右脳が発達するのかなどについては、ほとんど判明していないのが現状。

色々な早期教育は、現段階では未知のものがおおく、その結果を保証するものではない。まだまだ育児や教育に直接的に役立つほどの成果を脳科学の分野はあげておらず、未解明なことばかり。

教育の方法ばかりがとやかくいわれ、目的の議論がないことが問題。身近に目標となる存在があるといい。

早期教育で人よりすぐれてほしい、能力が優れているほうが素晴らしいという競争主義的な考えは、どうでない子はダメ、という偏見や差別意識につながりかねない。極端に偏った早期教育には基本的に反対。

愛情は便利で危険。愛情があれば何をしてもかまわない、となりかねない。

・非行に走った子どもの家庭に共通していたことは、安易に子どもに謝る親の存在。簡単に謝ることは親への不信と不安を子どもに与える。

・抱き癖
どんどん抱けという説と、抱き癖がつくから抱かない方がいいという説があるが、どちらでもよい。10歳まで抱き癖がある子はいない。

・反抗期
心理発達の過程で、たいてい2度ある。一般的に一度目は2-4歳頃、二度目は青年前期。

・テレビと赤ちゃん
生後2か月の視覚行動は刺激の一部に注意が向くとそれをじっと見てしまう。注視時間の長いテレビを長時間見る状況におかれると、赤ちゃんは何時間も見てしまう。それは集中力がついた、興味をもっている、ようにみえるがそうではない。音声刺激と視覚刺激が機械装置から同時に提示された場合、乳児は視覚刺激に優先的に反応する。乳児は語りかけに対して反応して体を動かすが、テレビなどでは反応しなくなってしまう。

・読み聞かせやおもちゃ
一方的な読み聞かせや、本の種類の問題だけでなく、本を通じて親子の気持ちのやりとりをすることが目的。おもちゃも本も、親と赤ちゃんがそれを使って楽しむためのもので、大切なことはそれをつかってどうコミュニケーションをとるか。

・Jボウルヴィの3歳児神話
母性的養育を喪失した子どもの発達は、例外なく違い(身体的・知能的・社会的に)し、肉体的、精神的不健康の徴候を示す。という3歳児神話だが、米国や日本では「母親の就労の有無と、子どもの発達とは無関係」という研究も相次ぎ、3歳児神話を影を潜めた。

3歳児神話もいき過ぎると弊害が出る。母親1人が子どもを育てるわけではないし、アメリカの研究では優秀な保育士は、母親の育児と同じ結果が得られる。親にも1人の人間としての人生がある。

人間は上へ伸びる喜びと同時に、幅を広げる楽しみも知っている。肝心なことは子どもを天才に育てることではなく、幸せな人間に育てること

 

  • 感想あれこれ

3歳児神話の否定の話などは、知っておいていい話。そもそも人間という生物は誕生以来、母親1人で育てるなどといったことをしている時代は歴史上ほとんどないので、当然といえば当然。

またテレビという受動態のメディアに注意をひかれてしまう魔力は、確かに一理あるだろう。主体性を育てる面では役に立ちにくいが、テレビやスマホは強力な武器にも毒にもなるので、それをわかった上でどう使うかだろう。

脳科学専門の医者が右脳教育や早期教育について、その効果は全く分からないとして、否定的な立場をとる点はとても興味深い。同じ脳科学を専門でありながら、右脳教育・早期教育を徹底的にやっている七田氏としっかり話し合って欲しい。(七田氏は既に亡くなっているため現実的には不可能)学者同士の話とはいえ、結局この議論は効果があるとも、効果がないとも言えない、結果がハッキリしていない世界の話だからこそ、何を信じるかということなのだろう。

アリヴェデルチッ!