「日本人の9割が知らない遺伝の真実」
生まれながらに頭がいい、運動ができる、など「遺伝」について語った行動遺伝学の本。
●評価
全体評価:4
(1,2,3-,3,3+,4,5の7段階評価)
内容:4
読みやすさ:4
コメント:人間と遺伝について、冷静に語った本。残酷な真実も含まれるが、知るべき内容。
(2016年発行、安藤寿康著、SBクリエイティブ)
●本を読んで取り入れたいと思ったアクション
知識として知ることは非常に有益。
ただ「遺伝」という、既に決まっている情報に関する話なので、アクションとしてはとりにくい。
●本のポイント
・IQは70%以上、学力は50-60%位の遺伝率。
学力の70-90%は子ども自身にはどうしようもないところで決まっている。能力には大きな遺伝的差異があるので、学年制の教育制度はナンセンス。習得主義では、学年性は不適。音楽や執筆、数学、スポーツの才能は遺伝の寄与率が80%を超えている。精神疾患や発達障害も遺伝の影響が強い。
・外国語の才能のみ、共有環境の影響が表れている。(遺伝ではなく、環境要因が大きい)
・環境と子どもの才能の関係
行動遺伝学の研究から導き出された重要な知見の1つは、個人の形質のほどんどは遺伝と非共有環境から成り立っていて、共有環境の影響はほどんどない。共有環境を作る主役は親。つまりどんな親かは、子どもの個人さにはほとんど影響がない。親や先生や教え方の影響が子どもに及ぼす影響は少なく、教え方やクラスの違いよりも、遺伝の影響の方がずっと大きい。
語学などを除けば、ほとんどが遺伝と非共有環境で説明できる。父親が本を読むと息子が読書をするなどが、かろうじて効果がある。ほとんどは親が何かの勉強やスポーツを好きで、子どもにやらせたり、姿を見せるから、子どもが好きになるという訳ではない。
・グリットも遺伝の影響が大きい
グリットも自己制御能力も勤勉性も、その個人差は遺伝と非共有環境からなっている。環境が形質に与える影響はあくまで一時的であり、長期的な持続性は遺伝の影響の方が大きい。
・学業に影響を与えていそうな環境要因「カオス」
家の中が散らかっているとか、時間にルーズなこと。このカオスと学業成績に相関関係がある。因果関係があるかわからないが、整理整頓や時間厳守のしつけは学業成績向上につながる可能性が高い。
・小学生の場合は、遺伝的な資質はまだ発現途中で、成人したときの遺伝的資質を必ずしも十分に予測できていない。
・知的英才教育のための幼児教育教室で、将来の知的能力のために早くから訓練することの効果は、見出されていない。
・「本物の知識を学ばせる」「本物に会わせる」ことが大切。
スポーツや芸術で若くして天才が生まれやすいのは、本物に会う機会があるから。一般の子どもは青年期にかけて育つ才能を子ども扱いし、テストのためのテストや入試という仕組みで、能力を浪費させている。
・多様な評価軸を
知能や運動能力など、人の能力のほとんどは50%程度の遺伝率があり、いずれも成績を並べれば正規分布する。どんな能力についても遺伝による差は避けられないが、評価軸が多様化すれば、人々の幸福度は向上する。生まれながらに、社会的に認知される能力がない人は存在するので、皆が輝けるという欺瞞をやめて、そこをフォローすることも必要ではないか。どんな遺伝子を持って生まれてくるか、どんな環境に出会うかは、非常に大きな要素であるが運なので、自己責任では解決できる問題ではない。
●感想あれこれ
私はこういう遺伝とか進化の話は大好きなので、大変興味深く読めた。著者は慶應大学の教授で専門は行動遺伝学と教育心理学。最後の「多様な評価軸を」でまとめた、彼のメッセージは非常に考えさせれるものだった。
また今後100冊の中で紹介する、アンジェラ・ダックワースの研究(グリット)や、ヘックマンの研究(幼児教育の経済学)を、実際は遺伝的にほとんど決まっているもの、とぶった切っている点も面白く読めた。
このまとめをみると、全て遺伝で決まっているならしょうがないじゃないか、と思う人もいるかもしれない。逆にそうならば、そんなに無理に子どもを頑張らせてもしょうがない、と思う人もいるかもしれない。だがこれはあくまで、主に才能と遺伝の関係の本だ。当たり前だが、教育や子育ては、能力を伸ばすことだけではないと思う。
知的能力の7割がたとえ遺伝だとしても、残りが3割しかないと考えるか、3割もあると考えるかで、アクションは変わるだろう。後天的に努力できる点としては、「家の中が散らかっているとか、時間にルーズなこと。このカオスと学業成績に相関関係がある。」は経験値的にも正しいので、気をつけるべきだ。
事実を知ることは非常に大切だ。しかし変えられない部分を悩むことはナンセンスだ。変えられる点や、才能以外に自分が大切だと思う価値観や、広い世界に目を向けて、最終的に幸せに生きていけるような子育てや教育を追究していきたい。
アリヴェデルチッ!