胸が詰まってしょうがない小説:ワイルド・ソウル

Pocket

久しぶりに小説を読んで震えた。

その作品はストーリー自体はフィクションだが、「ある歴史上の事実」を素材にしている。

その歴史上の事実は、日本人とは無縁ではない。

無縁ではないのだが、知られておらず、あまりにも切なくて、胸に刺さる事実。

 

この本は数か月前に静岡の浜松に行って、ブラジル日系人と交流する中で、紹介されたものだ。

私はブラジルが大好きで、また行くだろうし、日系人の友人もたくさんいる。

私の友人は2世も多いが、ほとんどが3世だ。

 

この話はブラジル移民1世の話だ。

日本が貧乏だった時代、南米に楽園のような農場があると言われ、移民をする。

そんな彼らの新天地でのアドベンチャーな話だ。

だがその新天地での幕開けは、非常に苦しいものとなる。

 

この小説はただ惨状を書いている訳ではない。

途中からぶっ飛んだ展開になっていて、エンタテイメントとしても非常に面白い。

日本人の知らない日本人の歴史を、エンタテイメント小説で是非読んで欲しい。

心が動かされる。

 

私は大学で話をする時、学生達に私たちの生きている世界・環境について

3つの幸せを噛みしめろ!

の話をよくするのだが、この本を読むとよりいっそう、今自分たちが生きている現代という幸せを理解し、大切に生きなくていけないと思う。

 

以前、中米のドミニカ共和国に行ったことがある。

紛らわしい話だが、世界にはドミニカ共和国とドミニカ国があり、どちらもカリブ海にある。日本語でドミニカというと通常ドミニカ共和国を指し、こちらはイスパニョーラ東部にある。島西部はハイチだ。ドミニカ出身の野球選手が有名だが、このドミニカとは、ドミニカ共和国のこと。

dominican republic

ドミニカ共和国と言えば、灼熱の太陽、青い海、陽気な人々、メレンゲ、バチャータ、ラム酒、シガー、冷たいビール(プレジデンテ)。こうした特長をあげると、本当に私が大好きなものばかりだ。

そしてこの旅で最も印象に残ったことが、日系移民の方との出会いだった。コンスタンサという田舎町で、日系人のコミュニティで話を聞く機会があり、その後現地の日系人協会会長の家に泊まらせて頂いた。鹿児島から出てきたという、いわゆる移民一世で80歳過ぎのおばあちゃんと、その息子・娘、その孫の皆さんと出会えたことは本当に幸運だった。

 

特に若き日のおばあちゃんが花を育てたいと思いからドミニカ共和国に渡り、現在その夢を果たして花を育てて売るビジネスをやっている話。それまでの大変な道のりのお話には、本当に感銘を受けた。

当時はそう思った。

でもこれ、単に「おばあちゃん、異国の地で頑張ったんだな~」で終わるレベルのことではなかった。

 

棄民」という言葉を来たことがあるだろうか?

文字通り「捨てられた民」という意味だ。

FNNドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『そこに楽園は無かった~ドミニカ移民 苦闘の半世紀~』

『 日系ドミニカ移民の悲劇 祖国に裏切られた50年 』

ドミニカ移民訴訟

ドミニカ移民は当時の政府の嘘に騙されたとして、日本政府を相手に訴訟し、小泉首相が2006年に謝罪している。

50年以上経って謝罪された時には、1世の人たちは生活の厳しさで、ほとんど生き残ってなかっただろう。

 

その1世のおばあちゃんの娘さんからは、日系人として日本に出稼ぎに行くリアルな実情を色々伺った。私がたくさん聞いたせいで、夜更かしして話をしてくれたこと、おいしい饅頭や日本食を作ってくれたこと、農場を見せてくれたこと。今考えれば、本当に貴重な思い出だ。

ドミニカ移民

改めて私を温かく迎えてくれた日系ファミリーの皆様、そしてたくさんの話をして下さった日系人の皆様には感謝に堪えない。2世以降に日本文化が急激に失われているのも現実だが、1世や一部の日系社会で日本以上に日本らしさが残っているのも現実だと感じた。

ドミニカ共和国移住50周年記念を祝して、『今、生きてここに在る』という移民の皆さんの話をまとめた本を頂いたが、これは日本人必修本だ。

タイトルは激烈。

内容もその通りで。

たくさんの日系移民の方々の歴史と苦労を知り、読むだけで胸が詰まる。

こちらは残念ながらアマゾンでは売っていないが、もう少し気軽な形で読めるワイルド・ソウルは、是非読んでみて欲しい。

 

アリヴェデルチッ!