行列の人気レストランが、より多くのファンを生み出す理由

Pocket

前のエントリーで書いた大人気のレストラン、なんと3時間待ち。

ご飯を食べるだけに3時間も待つなんて初めてだ。そう思いながら、もうちょっと深く人気の秘訣を考えてみる。

一般的にレストランでも商品でも、考えるべきキーワードは、「価格」と「品質」だ。当然だが価格に対して、品質が高いと客が思えば、人気が出る。「この価格でこんなおいしいお肉が食べられるなんて幸せ!」と思わせたら、勝ったも同然だ。

したがってお店側としては当然、品質を上げる努力をしたり、価格の設定に細心の注意を払う。レストランであれば、客は他の数あるレストランに行くこともできるのだ。選ばれるためには「品質」や「価格」について、思いをめぐらすのは当然だ。

しかし、長蛇の列をなすレストランを見て思うことは、人気の理由は「価格」と「品質」だけではないということだ。むしろ彼らがうまいのは、「価格」と「品質」だけという問題設定を、うまくかわしていることだ。

レストランであれば、味やサービスで勝負のように感じるかもしれない。味はおいしい方がいいし、サービスは良い方がいい。しかし行列レストランは、そこだけで勝負していないのだ。むしろサービスに関しては、その逆をいくこともある。

長蛇の列、というとディズニーランドが連想される。ディズニーランドでは待つことすらも、エンタテイメントの一環のようにすら感じる。待っている間に、期待を膨らませながら楽しく友達と話す雰囲気、隠れミッキーを探す楽しみなど、ただの退屈な待ち時間をワクワクした時間に変えるのだ。

IMG_0278

一般的にサービス向上がお客のためになるのであれば、行列レストランは予約を受け付ければ、待つことがなくなり、顧客満足度は向上するはずだ。

それでは顧客に不便を強制するようなシステムを採用することに、どんなメリットがあるのか。それには2つの理由が考えられる。

1つの理由は「行列マジック」効果が期待できることだ。長い行列があるレストランはおいしい。人が並んでいるからおいしいに違いないし、並ぼうという気持ちになる。予約制では誰も待たないので、そうはならない。待つことによって、こんな待つからおいしいものだ、と自分を説得するし、待っている間にお腹が減って本当においしく感じられる。

そりゃそうだ。ご飯を食べるときに外で3時間も待つことは、日常生活ではまずない。そんなに待ったら、なんでもおいしく感じる。そうやって心理的肉体的に「待つ」ということをうまく使っている。

もう一つの理由が、「差別化」だ。これもマーケティングでは兎にも角にも「差別化しろ」と言われるが、あえて不便な方向に差別化することで、実は圧倒的なメリットを呼び寄せている。

待つという経験は、もはや一般的な経験ではない。特に食事のために数時間待ちとなれば、圧倒的な非日常体験だ。その非日常体験の中で、色々な逸話が生まれる。「かつて総理も待った」なんていう逸話があれば、さらに最高だ。そうした非日常体験は周りにも話したくなるし、それが口コミとなる。

そしてその一連の活動が「ファン」を生むのだ。非日常体験を口コミで語らせることで、その店が良いと自己説得させる効果もあり、ファンをつくる。ファンは需要(客のニーズ)に対して供給(客席など)が絞られている時こそ、強いファンになる。

私はX Japanのファンだ。数年前に彼らの韓国ライブにも行こうとして、韓国行きの航空券を買った後に、ライブがキャンセルされ、結局航空券もキャンセルしたことがあった。もちろん非常に残念だったが、逆に「これくらいで挫けてたまるか!」「自分のファン魂が試されている」と勝手に解釈したものだ。

制約があればある程、ファンは試されていると感じ、ただの不便を勝手にファンであることの試練だと感じて、熱烈なファン化が促進されるのだ

このように、一見顧客のサービス向上と逆行しているように見える、行列のできるレストランだが、その裏では「価格と品質だけの勝負」から問題設定をずらし、「行列マジック」を使い「非日常体験」を生み出し、見事に「差別化」「ファン育成」に成功しているのではないだろうか。

彼らが提案しているのは、おいしい食事やサービス、適切な価格だけでなく、待つことを含めた一連の非日常エンタテイメントなのだ。

アリヴェデルチッ!